コンパクトなものの魅力について羽生先生の語ったこと
3/1に静岡市のふじのくに自然環境史ミュージアムで開催された羽生善治先生の講演会に行ってきました。
テーマは「コンパクトなものの魅力」
歌人の田中さんが聞き手として羽生先生のお話を引き出す形で進行します。
国民栄誉賞受賞後とあってか会場は満員。
遠くは北海道からも。
県内も、田中さん曰く、元はごろ〇フーズの社長さん?、伝統工芸作家の親子さんなどひとりひとり羽生先生に紹介したいくらいの方々がいらしていたそうです。
1時間という短い時間ながら、田中さんが以前羽生先生と対談されて既知の仲かつ同い年ということでぐいぐい踏み込み、また羽生先生も明瞭に答えたため非常に濃い内容でした。
箇条書きでまとめさせていただきます。
Q&A
Q.永世七冠をとった率直な気持ちは?
A.(永世七冠になれる)3回目のチャンスを活かせたなあという気持ちと、棋士生活30年という節目の達成感を得た気持ちです。
Q.プロになれたときの気持ちは?
また一年目からいきなり勝率1位となられましたがどう思っていましたか?
A.四段になれると、〇歳までに抜けなくてはプロになれないという縛りなどから解放されてホッとしました。自分がその年齢だったわけではないですが縛りはプレッシャーでした。
四段になるまで記録係を経験せず、棋士の方とは対局で初対面だったので、一局一局緊張して臨みました。特に関西所属の棋士は対局ではじめましてとなるので緊張しました。プロ一年目は他にも勝っている方がいたので自分だけ突出して勝っていると思いませんでした。
竜王のタイトルを19歳でとりましたが順位戦では足踏みしていました。19歳タイトルは、流石に数年は破られないだろうと思っていましたが、一年経ったら屋敷さんが18歳でタイトルを取得しました(笑)自分が思うよりも簡単に覆されるものなんだなと(笑)
Q.24歳で名人になったときの気持ちは?
やった!っ思いました?どんな勉強されたのですか?
A.(苦笑)3年間少しずつ登った感覚でした(笑)
10代20代は決まった時間で将棋の勉強をするということはなく、公式戦でアイデアや発想を考えていました。また移動が多かったので移動時にもアイデアや発想をよく考えていました。
Q.2000年、タイトルを破られ一冠に。一冠もすごいのですが...うまく行かないときにどう思っていましたか?
A.負ける時は、不調なのか、実力なのか見極める自己診断をします。
実力ならば、正統公平な評価であり結果なので事実を真摯に受け止め、努力して次のチャンスを伺う。
不調ならば、やっていることは間違っていないが結果が出ていない。結果が出るまでタイムラグがあるのでやっていることは変えない。ただし落ち込みやすいので気分転換を心がけます。例えば、早起き、部屋の模様替え、趣味を始めるもしくはやめるなどですね。
いつベストパフォーマンスを発揮できるかといえば、リラックスかつ楽しく、肩に力が入っていないときです。
いい緊張は「身が引き締まる」、悪い緊張は「身がこわばる」と日本語で言います。
気持ちの面で向かって行きやすいよう「身が引き締まる」を目指します。ほどよくリラックスが理想です。
Q.何故、相手の得意戦法に飛び込むのか?
A.流行を無視して自分のスタイルを貫くと、できることが少なくなります。ファッションで黄色や赤が流行っても黒しか着れないみたいな。リスクがあっても長い目で見た時は流行を取り入れたほうがいいです。効率重視の世界では難しいかもしれないが将棋の世界はスパンが長いのでできます。
ただ、時間との勝負はありまして、研究手を出したら、もうすでに新しい対策が出ているというリスクはあります。
Q.好きな駒は?
A.銀。駒の種類(飛車、角、歩など)の中で、真ん中の強さでありますし、攻守の要です。
歩も重要ですね。歩を使いこなせれば将棋は上達します。
Q.好きな言葉は?
A.揮毫にも使う「玲瓏」です。
元々は八面玲瓏。まっさらで理想的な状態。
似た言葉では明鏡止水です。
ただ、揮毫選びは先手必勝なので(笑)
Q.将棋と短歌の共通項は?
A.遊びは面白いものが残り、つまらないものが廃れます。面白くするためには、駒を強くしたり増やしたりするか、盤面を複雑化する。ところが、将棋は駒を少なくし盤を小さくしました。400年前、現在のルールが確立したときの将棋は81面。この「小さくコンパクトにする」ことが日本文化の特徴であり、短歌との共通点ではないでしょうか。例えば能面は表情を見せないことでより情念を露わにしています。
詰将棋も簡潔です。江戸時代に名人が将軍に献上するために作った詰将棋の作品集があります。その中で煙詰めという詰将棋があり、解いたときは、ただ解けた以上の感動がありました。
詰将棋を通して時空を超えたキャッチボールをしているみたいですね。
Q.羽生先生のお話は、悠久の流れのロマンを感じますね。藤井聡太六段のような才気煥発の若武者の受け止め方をどう考えてますか?
A.160人棋士がいて先輩が40人なので、近年の対局はほとんどいつも後輩です。同年代か後輩、10歳や20歳下の棋士と戦うのが普通です。年が離れた棋士との対戦は藤井六段だけではありません。
世代が変わると、文法は変わらないけれど、言葉づかいが変わるようなことが、将棋の盤上でも起こるんですよ。
ジェネレーションギャップはあるけれど、世代が違うから受け入れないということではなく、取り入れられるものは自分のスタイルに取り入れたいと思っています。
Q.将棋が教えてくれることは?
A.「棋は対話なり」といように指し手の理由をあれこれ推測して自分の指し手を決めます。相手の気持ちをあれこれ考えるところは将棋を通じて学ぶところではないでしょうか。
Q.加藤一二三九段も人気ですね。先生から見た加藤先生は?
A.加藤先生は規格外の方です。
棋士もサラリーマン同様、20歳くらいでデビューし60歳で引退の通常40年くらいが現役で、63年は連盟も標準では想定していません。勤続表彰は25年と40年で、その上はないんです(笑)
私は30年ですが加藤先生の半分の折り返し地点ですが30年でも大変。最近、加藤先生の凄さをリアリティをもって実感しています。
70代で、長時間の対局を、一年間コンスタントにこなすのは大変だと思います。自分が70代になったときを想像すると自信がありません(笑)
Q.これから先の夢は?
A.目標はあまり定めません。
けれど、自分が想像していなかったものになりたいと思っています。思い描かないところへ進みたい。
こうして棋士をしているのも想像していたせんでした。教えてくれる友達に会っていなければ将棋は指していませんでした。
Q.最後に これまでに出会った人で一番影響を与えられた人は?この人がいなければというような。
A.うーん、八王子道場の席主さんかなあ。子どもが多かったのと、すくすく伸ばしてくれました。
その他いろいろ
▪️10代の頃、深夜の対局後に警察に補導されそうになったことがある。
▪️棋士は体力勝負。持久力と体力が必要。
▪️ご飯でゲンは担がない。普通に食べる。
▪️ 名人戦は江戸時代にできた家元制度が元になって時代とともに実力制になってきたものなので一番古く伝統と格式があってタイトル戦の中でも別格。テニスでいえばウィンブルドン。
▪️現在の将棋ルール確立は400年前。
▪️静岡のいいところは、気候が温暖で海鮮が美味しく他の食べ物も豊か。北に富士山、南に駿河湾の風景を見ると、ああ、いいなあ、静岡だなあと思う。
▪️家ではのんびりしている。カレンダー通りには過ごしていない(土日決まって休みなどの意味かと)。棋士のいいところは、ボーッとしていても傍から見たら違いがわからないところ(笑)周りがいいように考えてくれます。
▪️子どもの教育方針は特にありません。すくすくと育ってくれれば(笑)
▪️(娘さんがおふたりとのことですがもし結婚されるという話になったら、娘は渡さん!みたいに反対しますか?(笑))娘の結婚はなってみないとわかりません(笑)
感想はまた別に書きたいと思います。